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デリック/トラヴィス
昔どっかの裕福なパトロンに囲われてたというトラヴィス妄想をこじらせた
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ブランプトン、ケンブリッジ、アルトゥーナ。

故郷。なんて泣きたくなるような音を持った美しい言葉だろう。
トラヴィスはそれに母の白いやわらかな腕を見、それからついこの前まで住んでいた部屋を思いだそうとする。残念なことにのっぺりとしたガラス越しの灰汁色の空しか見えなかった。その前も、その前も。いくつ違う枠におさまった空を見たのかなんて覚えてない。どこも幸せの香りがしていたのは事実だけれど。

「なに見てんの?」
「あの欠けたレンガのキラキラしたところ」

ふーん、興味なさそうなデリックの声を聞いて、赤土にくるまれ鮮やかなオレンジ色に焼かれた、何年も経ってようやく日の目を見たかがやく鉱石の故郷についての思索を止める。
なかなか魅力的ではあるけれど、そう面白くはない想像だ。貝殻ならいくぶんロマンティックだったけれど。

「俺を待っててくれたんじゃないの?」

そう言ってのぞき込んできた笑顔を見る。こっちの方がよっぽどいい、なんてことをぼんやり考える。デリックがルームシェアを言いだした理由など(ましてやキス、それ以上なんて!)知るよしもないが、彼のささやくときにあまく、低くなる声と、彼の家の窓の額縁から見えるネオン色の空は身体に悪いと思う。ちかちかして、涙をさそう。

「待ち人は来ないのがセオリーだから、時間を有効に使っただけ」

そう言うとデリックはちょっと驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑ってキスをした。デリックのキスは挨拶程度のは優しくて、夜のは巧い。それからどっちもトラヴィスをなだめるニュアンスで二回繰り返される。

「他のロフトの人に見られるよ?」
「あんまりかわいいこというと襲っちゃうぞ」

ええ、外はやだ、思ったままのことを言うとまたデリックは笑う。あ、この顔はだめだ、直感にも似た感覚でトラヴィスの胸はきしむ。そんないとしいものを見るような目とか、しあわせに引っ張られて弧を描いたような唇なんかを見ると、どうしていいのか分からなくなる。

「朝からって面倒くさいな」
「でもその分今日は昼まで」
「ミス・ジョーンズは?」
「かわいそうに、昼から六限まで」

腕が肩に回る。

「・・オゥ」
「時間は有効に使わねぇとな!」

ちょっと大げさに空に目を向け、はあ、自分でもまんざらでもなさそうに聞こえる(顔を赤くするには十分すぎる)ため息をつく。抱きしめられると泣きたくなる。腕のぬくもりに、こころの距離に。自分はきっとこのぬくもりを失うことになる。それはひそやかな、切ない確信で、そんなことを思う少しばかり残酷な事実にきしむトラヴィスの胸は、音をたてる。ネオンカラーは目映いばかり、けれどいつかは褪せて顧みられなくなるなるのだ。

(だって好きだの愛してるだの、いつだって言ったこともなければ言われたこともないのに!)

肩から下がるデリックの手にトラヴィスは自分のを重ねる。相変わらず愉快そうに自分に向けられるきれいなブルーに映り込んだ、自分の顔に目を閉じた。

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