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コナマフ
あっけらかんとした死についての話
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「俺が死んだらどうする?」

酷い質問を昼飯のメニューを尋ねる様な気軽さで抱きつきながら聞いてくる。(返り血の付いた服でやるのは止めてほしい。)
マーフィーは幼い頃からこの質問を繰り返してきた。それこそ、死を覚束ないながらも理解した時からだ。コナーはその愛されるためにつくられた甘い顔を持つ弟の、美しい空の目を見つめる。
生まれたときからこの眼前に晒されているのにいつまでたっても慣れないし、いつだってコナーは不安になる。この世界に安全など存在するのだろうか。ぼんやりとコナーは思う。
コナーはいつかその光に撃ち殺される。
「どうするって?」
コナーが服を脱がせながら意地悪く尋ねると、マーフィーは答えが返ってこなかったことに子供のように拗ねて薄い唇を尖らせる。「ファック、後追いするか気ィ違えちまうか俺を思って泣きながら生きてくかってことだよ」わざと望む答えを言わずに言う。それにしても、相手を忘れて楽しく人生を過ごす、などという愚かな選択肢は存在し得ない、ということを実感させるのにこの質問は実に最適だ。
「わかってるくせに」
服を汚れた床に投げ捨てる。(今週の洗濯当番はマーフィーだ。)劣悪な恋愛映画は罪だと思うけれど、実際自分がやるのはそう嫌いじゃない。つまりは、ロマンチストなのだ。愛してるなんて囁いてみるのも、イェーツやオーデンを愛するのも、小さいキスをあちこちに落とすのも。コナーは考える。誰に言い訳してるのか分からないが、そう云う事だ。
窓からは夕暮れのサンディーブラウンとバラの香り、すばらしく陳腐でコナーは思わず笑いたくなる。おお感謝します!
マーフィーがねだるような顔をしたので(この顔がコナーはたいへん好きなので、つい甘やかしてしまうのだ。)全てを奪うようなキスをしてやり、我慢の限界が近づいたので答えてやる。コナーの魂の片割れは使命を果たした後は何時にも増して短気になるのだ。
「ばか、俺はお前と一緒に生まれたんだから一緒に死ぬに決まってるだろ。元々一つの肉塊だったのだから。そんで二人で、そうさ、一緒に俺たちの慈悲深い主の元に行くんだろ?きっと大喜びで迎えてくれるさ。(俺がマーフを愛するよりも俺を愛しているのはマーフで、マーフが俺に依存するよりもマーフに依存しているのは俺、なのだ。たぶん。)」
マーフィーはとろけた目で満足そうに笑って、「愛してる、コナー。」コナーが望んでいるように丁度キスをした。使命を果たした後はいつも考えられない程甘ったるい空気を作るのだ、恥ずかしい!


さて、それで、我々は、
罪人なのでしょうか?

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コナマフ
おばあちゃん捏造してます。
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わたしはアイルランドの女だもの、それが祖母の口癖だった。いつも故郷をエメラルドの島と呼び、きまって望郷の色で目を輝かせた。お前たちにはアイルランドの血が流れているとも言った。

ここではなんだってできる、母はいつもそう言った。アメリカ人よりもアメリカ人らしくあろうとする彼女が根を下ろすのに選んだのはもっともアメリカらしい街だ。俺たちはそこで育った。

母は男を追いかけて海を渡った。それが俺たちの父親で、その時母は俺たちを妊娠していたので祖母もついてきた。女の人二人でしかも片方は妊婦だなんて、よくやるなあと今でも思う。
このからだには祖母と同じ血が流れている。けれどそのアイルランドを一度も見たことはないのだ。かといって母の愛するこの国には馴染めないところもある。
ほとんど逃げるようにしながらも御国を実現するために働くのは、帰る場所がほしいからかもしれない。湯船にうかんだ泡を見ながらぼんやりと考えを巡らせる。白い泡はタイルやバスタブの影響で薄ピンクに見える。泡の隙間に海を思う。
船縁に掛けた手を見る。
ひとごろしの手。いくつかのささやかなステップをふみ、最後に引き金をひくだけでいともかんたんに命のほのおは消えさる。かえり血を浴びることすらほとんどなくなった。それでもコナーはマーフィーの両手をすみずみまで洗う。
手のひら、指のあいだ、爪のすきま、手のくぼみから手首までやわらかい泡でつつむように洗う。
マーフィーはおもはゆいのとすこし、せつないきもちになるのでいつも制止しようと試みるのだが、あまりにもコナーは真剣なのでついにはうやむやにしてしまう。
贖罪のつもりなのだろうか、それとも贄のひつじを手入れするのとおなじつもりなだろうか、マーフィーにはわからない。むかしからコナーの考えていることはわからなかった。祈りだろうか。虫のいい。神の名の下だろうがなんだろうが、ひとをころしている、その事実はかわらない。マーフィーはいつもそう思う。
いつまで続ければ、コナーがいつか父に投げかけた言葉だ(問われた本人はまた姿を消した。きっと標的をみつけたら帰ってくるのだろう)。答えはまだみつからない。

デラシネ、根無し草。帰る場所のない俺たちは、どこへ。

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コナマフ
思春期の悩み。
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「もうやめにしようか。」
こういう事。兄弟がいつものように戯れとも愛の告白ともつかないくちづけを交わす合間にコナーが呟いた。
それは自分に言い聞かせるようにも、自嘲を含んだようにも聞こえたが、マーフィーは驚きの色も見せず微笑んだ。その訪れなどとうに予感していた。
それこそ、兄弟が最初にくちづけをー性的な意味でー交わした時からだ。
「それでどうするの」
顔をまともに見られなくて背けていた顔を弾かれたように上げ、コナーは弟を見た。微笑んだ顔は雪解けのような声よりもよほど甘くておどろいた。
「それで、コナーどうするの。」
マーフィーにとってはすなおな愛の延長上でしかないキスもセックスも、罪だと思いつつも止められないことも、コナーにとっては責め苦でしかないのだ。マーフィーへの愛と神への愛はコナーにとっては別物で、兄弟への劣情はコナーをがんじがらめに縛り付ける。
それを思うだけでコナーの心臓はいばらが巻き付いたように傷むのだ。
「どうするの、確かに誘ったのは俺、拒まなかったのも俺。それでコナーはどうするの。」
薄い、きれいな色をした唇から歌うように流れ出る言葉はコナーの心臓をひどく痛めつけた。その毒は耳に甘く、心に苦い。
「俺はお前の鞭、お前の蛇。お前の岩、お前のマナ。」
ほろほろ涙をこぼしながら、そう言うマーフィーの輪郭すらコナーには滲んで見えた。その微笑みが哀れみなのか誘惑なのか赦しなのかさえも訝しかった。それがどうにもかなしかった。
労働と祈りですっかりくたびれた、けれど相変わらず美しく、命の色をした指で涙をぬぐってやりながらマーフィーは笑みを深くした。マーフィーにとって神に最も愛されている兄を愛する事は、祈りだ。そんな単純な考えを思いつきもしないことがコナーの苦しみで、その苦しみを間近で感じることが自分の苦しみで、自分の祈りを押し付けるだけで救えないことが罰なのだ。柔らかい春の月の色をした髪に指を滑らせる。

天国への階段は枕もとから伸び、その門の鍵は手のなかに。
願わくば、愛してやまないこの兄と、ともにあなたのお傍に置いて頂けますよう。あめのきさき。

幼い頃からの祈りとともに、コナーにくちづけた。

どうしようも、ない。

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コナマフ
思春期の初恋の気付き。
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マーフィーが兄をいろんな意味で愛していると気がついたのはちょうど髪を伸ばし始めた頃だった、前髪があると幼く見えるので。手に余る感情に怯えたマーフィーは自然とコナーから距離をおくようになった。時間がどうにかしてくれる、そう信じていた。年相応に見られたいほどには幼かったのだ。
「マーフ」
耳に馴染む声に振り向く。声変わりする前のも好きだったけれど、今の声の方が好きだ。そう思ってすこし吃驚した。好きだって。かたちにしてみるとそれは、心臓がぎゅっと縮まる気がする。思ってたよりおれってロマンチストだ、そう考えてちょっと微笑った。
なにか、自分のなかのなにかを刺激しないようにできるだけそっと振り向いた瞬間にあ、だめだ、そう感じた。だめだおれこの人のこと好きすぎる。
時間なんかじゃ解決できないことを悟った。永遠に、かないそうにない。
何だよ、俺の顔になんかついてんのか?そんなとんちんかんな事を尋ねる声(それはそれは甘く低い声でひびくのだ!)、覗き込むようにこちらをみる空色、冬のまぶしい太陽でひかる髪なんかが押し寄せてきて、

(ちかちかして目が痛い)

その痛みまで甘いのだ。いよいよばかだ。意を決してマーフィーは口をひらいた。きんとした空気に全部の水分を持っていかれた、気がした。
「おれのものになってよ、コナー。」
思ったより切なそうな声がでたことをマーフィーが恥ずかしがる前に、コナーは指先でマーフィーの頬をちらりとかすめて(それだけでそこに熱が集まるのを感じた)一瞬空気を溶かすみたいに笑ってみせて、言葉をするりとすべらせた。
「なあ、とっくにお前のものだって言ったらどうする?」
鼻のおくの方がつんとしたけれど、予想に反して涙なんかでなかった。

うそだ。そうきっと、永遠にコナーには追いつけやしないと思うのだ。

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コナマフ
恋未満の思春期の話。



「コナー、コナー、どうしよう」
怖いんだ、自分の声が時々知らない大人みたいに聞こえるんだ、そういってマーフィーはコナーの肩に顔を埋めた。
部屋に母親の焼くパイの匂いがする頃の話だ。

「どうして」

この前は早く大人になりたいと笑ってたじゃないか。そんな言葉ばかり巡って自分の非力さに吐き気がした。
「かわってしまう、どうしていつまでも子供のままではいられないの。この腕は足はどんどん伸びて骨張って、身体の変化についていけないよ、」
コナーが全然知らない人に見えるんだ、そう言ってとうとうマーフィーは泣きだした。
「マーフ」
できるだけやわらかい声をだす。コナーはマーフィーの涙に動揺している自分に気がついた。
「俺がいるよ、どんな時だって俺はお前を見つけてきただろう。お前が迷子になった時も、ジュニアハイでばかな仮装をしたときも。お前が自分の事を分からなくなっても俺にはお前が分かるよ。」
駄々をこねるみたいに首を振る。コナーは片割れの幼い動作にどうしようもなく愛おしさを覚えた。これは庇護欲だろうかそれとも独占欲だろうか、そう思ったが舌触りが悪いので愛ということにした。もっとも、愛がどんなものかなど分からないのだけれど。
「俺のことはお前が見つけてくれるだろ?」

できるだけそっと頬に手をそえる。右の目蓋にキスを一つ、目尻には二つ。涙は塩味だった。悲しみの濃度は濃い。
「コナー」
見上げてくる赤い目に、鼻にかかった甘い声に(こう言い切ってしまうとあれかもしれないが)、欲情した。
はやくはやく、はやくしないとしんでしまう!
「、マーフ」
だめなのだ。マーフィーが泣くのも痛がるのもいやだけれど望むことも叶えてやりたいのだ。
身体に隙間のできないようにきつく抱き合って、唇を寄せ合い、舌を絡める。ひとつ深くうちつける度に、魂がひとかけら、削られる感覚。
きっと削られて、それでようやくひとつになるのに適したかたちになるのだ。
倫理も常識も関係がないのである。
ただただひとつになろうとするだけ、それだけなのである。

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