同じく再録本「リンカーネイション・パレード」(https://vvsm52.booth.pm/items/1453465)集録の書き下ろしのジェイジョシュ
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「やあ、救世主さんたち!」
命からがら地上に戻り嬉しいんだかくたびれているのかまだ分からないジョシュとレベッカは、突然現れたハンサムな熊みたいな大男の熱烈なハグと握手に見舞われ、何がなんだか分からず目を白黒させてしまう。正直に言えばぎょっとしたのだ。でかい。
「おっと。ジェイク・ローソンだ。よろしく」
その男はおどけたように笑っていう。
「"あの"ジェイク・ローソン!?」
「なんでこんなところに……」
本当にわけがわからなかった。戸惑う二人の肩をたたいて快活にジェイクは言う。
「つれないことをいうなよ、世界を救った仲間同士だろ」
「まあ……」
「さ、その英雄譚を聞かせてくれよ」
「なるほど。それならジョシュの方が詳しいし、説明も上手なので。じゃ、あとはよろしく!」
そう言ってウインクをして無情にも去ろうとするレベッカに行かないで!と叫びそうになる。ジョシュは人見知りのうえ、こういった押しの強い人間が一等苦手なのだ。すっかり困っているといかにも政府の人間、と言った青年がこちらにすごい勢いで向かって来て言う。
「兄さん!2人に話を聞くのは政府が先だぞ!」
「じゃあその場に居させろよ」
「できるわけないだろ!!」
そんなジェイクの弟の悲鳴も虚しく宣言通り説明会に同席したジェイクは、ようやっとお硬いお歴々から開放されたジョシュの肩に長年の友のように手を添えて快活に言う。
「いい報告だった。流石だな!ところで君は地下の先生だろ?すまないが色々教えて欲しいんだが、いいか?」
「いいけど……。でもなんで?メイジャー・トムは墓穴なんか掘らないだろ」
「可愛い顔をして言うねえ!……真面目な話をすると、今回みたいなことを二度と起こしたくない。君もそうだろ?どうだ?君と俺なら宇宙だってこの星を中からも外からもコントロールできるようになる。そう思わないか?」
まったく、夢みたいな事を言う。でもこの男なら実現させるかもしれない。そう思わせる笑顔だった。
「分かったよ。でも機密事項って念を押されたからなぁ……。カフェで話すわけにもいかないし」
「じゃあ俺の家はどうだ?なんとか残ってるからさ。あ、でも疲れてるなら後日でも」
あまりの圧に嫌だと言えるはずもなくジョシュは肩を竦めた。
「OK」
そうして彼の(驚いたことに)質素なトレーラーハウスに行き、少し話をしただけでジョシュには分かった。彼は才気というギフトを授かっている。ジェイクは真に天才だ。自分は着実に物事を運ぶが、ローソンは閃きで生きている。すごい、素直にそう思った。
「ジョシュは凄いな、俺の話をすんなり理解できるやつは少ない」
そんな自分と全く違う、しかし尊敬できる相手にそう言われるのはなかなか面映ゆかったが悪い気分ではなかった。
「もうこんな時間だ……」
「悪い、夢中になってしまった。あー、君がもしよければ泊まっていかないか?」
それを聞いてジョシュは固まってしまった。いくら下心が無いとは言え戸惑う。
この人は、自分がゲイだと、知らないのだ。
「いや娘さんのベッドはだめでしょ……」
「そうか?じゃあ俺のベッドで寝ろよ。俺はソファで寝る」
「ソファだとあんたはみ出るだろ。いいよ僕が、」
なんだかんだ流されて泊まることになってしまい最初は戸惑ったが、とはいえ惚れてるわけでも寝込みを襲うわけでもなし、特にセクシャリティを伝えなくてもいいか。そう判断して遠慮なく泊まる事になったわけだが、押し切られてジェイクのベッドで寝ることになってしまった。眠いのは事実だったので早々にベッドに入った。
(あ、これあの人のにおいか)
その晩は途方もなく暗い箱を思わせるような寝床に怯んだとは思えないほどに、よく眠れた。
それからというものの、さすがにこれが世界を、いやこの惑星自体のあり様を変えてしまった男か、という程の熱量とロマンを語りジョシュやその周りを巻き込んでジェイクはいつの間にやらジョシュに馴染んでしまった。そうして二人は議論を戦わせたり、ジョシュの勤める大学の空き部屋で怪しげな試作品を作ったりする、人が望んでも手に入らないような間柄となった。もしも二人の生まれた時代があと5年違ったら?もしもあのような大災害が二度も起こらなかったら?もしもどちらかがミッションで命を落としていたら?もしも、もしも。
「よかったのか、あれだけで」
そう尋ねるジェイクにジョシュは少し笑ってみせる。
「いいんだ。これから迷惑をかけることになるし」
しとりしとりと纏わりつくような雨の中、二人っきりの様な傘の中からサージの葬儀を見つめていた。
そして葬儀が終わってから幼い娘たちを連れた彼の妻にノートを手渡したのをジェイクは言ったのだ。渡して、それだけ。ハグもお悔やみの言葉も出なかった。大切な、そして生死を共にした友人の葬儀だというのに。でもそれでいい、とジョシュは思う。今、ラッドがリークした英雄譚が世界を駆け巡り始めている。それは大混乱を引き起こすだろう。残された家族には他人の不幸を喜ぶ人間が群がるだろう。それでも彼らのしたことを世界に伝えるのは残された者たちの使命だった。しかしそれに耐えてくれ、と残された彼女らに押し付けたことは傲慢であり非道なことだとジョシュは知りすぎていた。それで何も言えなかった。ジェイクは全てを感じ取って、それでもそんなジョシュを気遣ってくれる。
「ありがとう、付いてきてくれて」
ジェイクにそう言うと優しく笑って肩をぽんと叩かれた。それから二人は静かに立ち並ぶ墓石にたちの中黙って音も立てずに降る雨の中を歩く。ああ、この人が好きだなあとジョシュは思った。心臓に冷たさが沁み入るようだった。ジョシュにとって、彼のような男と愛し合えるようになるなどというのは幻想にすぎないのだった。
そもそもジェイクは自分のことを弟分としか見ていない。その証拠に事あるごとにジョシュが弟ならよかった、と言うだとか、子どもにやるように頭を撫で回したり親愛の情を込めて頬を軽く叩くのだ。機械油で汚れた男らしい身体や、真剣に計算している時の精悍な顔つきにジョシュが胸をときめかせ、欲を燻らせているのも知らずに。勿論伝えない自分のせいでそれが当然だという事は分かっている。それでも、もうジョシュには限界だった。
数日後、ジョシュはいつものように機械を弄り回しているジェイクの元へ赴いた。よお、遅かったじゃないか、なんて頭を乱暴に撫でて挨拶される。それを適当にいなしてジェイクの隣に座る。
「これは?」
そう問うと喜々として説明しだす。この関係で満足できない自分はなんて浅ましいのだろうと胸が痛んだ。
「ジョシュ?疲れてるのか?仮眠を取ったほうが良さそうだ。俺にもベッドの端を貸してくれよ」
朗らかに勝手なことを言うジェイクの唇の端にそっと口づけた。そう、こちらの下心など、思いつきもしてくれないのだ。
「おれはあなたの弟じゃないよ」
そのまま振り返らなかった。それには胸が苦しすぎたのだった。
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「やあ、救世主さんたち!」
命からがら地上に戻り嬉しいんだかくたびれているのかまだ分からないジョシュとレベッカは、突然現れたハンサムな熊みたいな大男の熱烈なハグと握手に見舞われ、何がなんだか分からず目を白黒させてしまう。正直に言えばぎょっとしたのだ。でかい。
「おっと。ジェイク・ローソンだ。よろしく」
その男はおどけたように笑っていう。
「"あの"ジェイク・ローソン!?」
「なんでこんなところに……」
本当にわけがわからなかった。戸惑う二人の肩をたたいて快活にジェイクは言う。
「つれないことをいうなよ、世界を救った仲間同士だろ」
「まあ……」
「さ、その英雄譚を聞かせてくれよ」
「なるほど。それならジョシュの方が詳しいし、説明も上手なので。じゃ、あとはよろしく!」
そう言ってウインクをして無情にも去ろうとするレベッカに行かないで!と叫びそうになる。ジョシュは人見知りのうえ、こういった押しの強い人間が一等苦手なのだ。すっかり困っているといかにも政府の人間、と言った青年がこちらにすごい勢いで向かって来て言う。
「兄さん!2人に話を聞くのは政府が先だぞ!」
「じゃあその場に居させろよ」
「できるわけないだろ!!」
そんなジェイクの弟の悲鳴も虚しく宣言通り説明会に同席したジェイクは、ようやっとお硬いお歴々から開放されたジョシュの肩に長年の友のように手を添えて快活に言う。
「いい報告だった。流石だな!ところで君は地下の先生だろ?すまないが色々教えて欲しいんだが、いいか?」
「いいけど……。でもなんで?メイジャー・トムは墓穴なんか掘らないだろ」
「可愛い顔をして言うねえ!……真面目な話をすると、今回みたいなことを二度と起こしたくない。君もそうだろ?どうだ?君と俺なら宇宙だってこの星を中からも外からもコントロールできるようになる。そう思わないか?」
まったく、夢みたいな事を言う。でもこの男なら実現させるかもしれない。そう思わせる笑顔だった。
「分かったよ。でも機密事項って念を押されたからなぁ……。カフェで話すわけにもいかないし」
「じゃあ俺の家はどうだ?なんとか残ってるからさ。あ、でも疲れてるなら後日でも」
あまりの圧に嫌だと言えるはずもなくジョシュは肩を竦めた。
「OK」
そうして彼の(驚いたことに)質素なトレーラーハウスに行き、少し話をしただけでジョシュには分かった。彼は才気というギフトを授かっている。ジェイクは真に天才だ。自分は着実に物事を運ぶが、ローソンは閃きで生きている。すごい、素直にそう思った。
「ジョシュは凄いな、俺の話をすんなり理解できるやつは少ない」
そんな自分と全く違う、しかし尊敬できる相手にそう言われるのはなかなか面映ゆかったが悪い気分ではなかった。
「もうこんな時間だ……」
「悪い、夢中になってしまった。あー、君がもしよければ泊まっていかないか?」
それを聞いてジョシュは固まってしまった。いくら下心が無いとは言え戸惑う。
この人は、自分がゲイだと、知らないのだ。
「いや娘さんのベッドはだめでしょ……」
「そうか?じゃあ俺のベッドで寝ろよ。俺はソファで寝る」
「ソファだとあんたはみ出るだろ。いいよ僕が、」
なんだかんだ流されて泊まることになってしまい最初は戸惑ったが、とはいえ惚れてるわけでも寝込みを襲うわけでもなし、特にセクシャリティを伝えなくてもいいか。そう判断して遠慮なく泊まる事になったわけだが、押し切られてジェイクのベッドで寝ることになってしまった。眠いのは事実だったので早々にベッドに入った。
(あ、これあの人のにおいか)
その晩は途方もなく暗い箱を思わせるような寝床に怯んだとは思えないほどに、よく眠れた。
それからというものの、さすがにこれが世界を、いやこの惑星自体のあり様を変えてしまった男か、という程の熱量とロマンを語りジョシュやその周りを巻き込んでジェイクはいつの間にやらジョシュに馴染んでしまった。そうして二人は議論を戦わせたり、ジョシュの勤める大学の空き部屋で怪しげな試作品を作ったりする、人が望んでも手に入らないような間柄となった。もしも二人の生まれた時代があと5年違ったら?もしもあのような大災害が二度も起こらなかったら?もしもどちらかがミッションで命を落としていたら?もしも、もしも。
「よかったのか、あれだけで」
そう尋ねるジェイクにジョシュは少し笑ってみせる。
「いいんだ。これから迷惑をかけることになるし」
しとりしとりと纏わりつくような雨の中、二人っきりの様な傘の中からサージの葬儀を見つめていた。
そして葬儀が終わってから幼い娘たちを連れた彼の妻にノートを手渡したのをジェイクは言ったのだ。渡して、それだけ。ハグもお悔やみの言葉も出なかった。大切な、そして生死を共にした友人の葬儀だというのに。でもそれでいい、とジョシュは思う。今、ラッドがリークした英雄譚が世界を駆け巡り始めている。それは大混乱を引き起こすだろう。残された家族には他人の不幸を喜ぶ人間が群がるだろう。それでも彼らのしたことを世界に伝えるのは残された者たちの使命だった。しかしそれに耐えてくれ、と残された彼女らに押し付けたことは傲慢であり非道なことだとジョシュは知りすぎていた。それで何も言えなかった。ジェイクは全てを感じ取って、それでもそんなジョシュを気遣ってくれる。
「ありがとう、付いてきてくれて」
ジェイクにそう言うと優しく笑って肩をぽんと叩かれた。それから二人は静かに立ち並ぶ墓石にたちの中黙って音も立てずに降る雨の中を歩く。ああ、この人が好きだなあとジョシュは思った。心臓に冷たさが沁み入るようだった。ジョシュにとって、彼のような男と愛し合えるようになるなどというのは幻想にすぎないのだった。
そもそもジェイクは自分のことを弟分としか見ていない。その証拠に事あるごとにジョシュが弟ならよかった、と言うだとか、子どもにやるように頭を撫で回したり親愛の情を込めて頬を軽く叩くのだ。機械油で汚れた男らしい身体や、真剣に計算している時の精悍な顔つきにジョシュが胸をときめかせ、欲を燻らせているのも知らずに。勿論伝えない自分のせいでそれが当然だという事は分かっている。それでも、もうジョシュには限界だった。
数日後、ジョシュはいつものように機械を弄り回しているジェイクの元へ赴いた。よお、遅かったじゃないか、なんて頭を乱暴に撫でて挨拶される。それを適当にいなしてジェイクの隣に座る。
「これは?」
そう問うと喜々として説明しだす。この関係で満足できない自分はなんて浅ましいのだろうと胸が痛んだ。
「ジョシュ?疲れてるのか?仮眠を取ったほうが良さそうだ。俺にもベッドの端を貸してくれよ」
朗らかに勝手なことを言うジェイクの唇の端にそっと口づけた。そう、こちらの下心など、思いつきもしてくれないのだ。
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