マイベンCP未満
二人が仲良くなった理由捏造



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 その日はマイク・バニングのPPDとして初めての屋外警護だった。国民と触れ合うため、チャリティイベントに新任の大統領であるベンジャミン・アッシャーが招かれたのだ。それは表面上和やかに過ぎ、ベンジャミンが6人ほどの赤ん坊にキスをして、支持者達に手を振りビーストへと振り返ったときにそれは起きた。
「うわぁあああ!!!!」
 苦悩から絞り出すような声とナイフを持った男がベンジャミン向かって走る。マイクはとっさにベンジャミンを守るように抱きかかえた。左の上腕三頭筋に強烈な熱さを感じる。テロリストに刺されたのだ。反射でマイクはナイフの刺さった腕を振り上げ、渾身の力で犯人の両手を叩き落とす。そして訓練通り組み伏せた。ほぼ筋肉で構成された自身の体重をかけ、男が落としたナイフを左腕から引き抜く。彼に刃を向けたものは刃でその罪を償え、そうナイフを掲げる。と、同僚たちがマイクを取り押さえる。
「落ち着けマイク!逮捕するんだ!!!!」
 理性では理解しているがどうにも衝動を抑えられずに唸るマイクを、SS達を振りほどいたベンジャミンが抱きしめる。
「ありがとうマイク。充分だよ……」





「ハア?じゃあなんだ崇拝してる大統領が自分のものにならないから殺そうと?イカれてんな!」
「言葉には気をつけなさい。正確には彼を傷つけようと、ね。自分の事を忘れられないようにしたかったみたい」
「ファック!クソ野郎が……まさか精神鑑定を?」
「そうなるでしょうね」
「冗談じゃない!病院送りになったらどうするんだ!あんなゴミは死刑がお似合いーー」
「マイク!」
 会話を遮って病室に真っ青な顔のベンジャミンが飛び込んできた。バニングとリンは姿勢を正す。
「ああ神よ!マイク、怪我は大丈夫かい?」
「こんなもん肉食って寝れば治ります」
 バニングのあっさりした物言いにベンジャミンは安心したようにため息をついた。
「本当に?よかった……そうだ!じゃあ今夜私と夕食はどうだい?とっておきの肉を出そう!」
 シャトーブリアン!タダ飯!そう言って子どものようにはしゃぐ二人にリンは咳払いをする。
「サー、一人だけ特別扱いというのはいかがなものかと」
 みるみるベンジャミンの眉が下がって利口な大型犬のように困り果てた顔をする。直属の上司を睨むバニングを見てベンジャミンは何かを思いついた様だ。
「では、命を救ってくれた大切な友人をディナーに招待するというのはどうだろう?」
 人たらしの本性を発揮して微笑むベンジャミンにかなうものなどこの世にはいないだろうとリンは思い、白旗を揚げる。
「……そうですね、そう言うことでしたら仕方ないでしょう」
「やったなマイク!」
「イエス、サー!」
「おっと、友人なんだから私の事はベンと呼んでくれよ」
 にこっと微笑むベンジャミンに流石の狂犬も毒気を抜かれ、破顔する。
「オーケー、ベン。タダ飯をご馳走になりにいくよ」
 ベンジャミンはバニングの手をとり、真剣だが優しい声音で言う。
「君たちに、君に、こんなことを言うのは酷だろうが」
 一息ついて思い詰めた様に言う。
「死なないでくれ」
「それがあんたの命令なら」
 即答だった。
「だいたい俺が死んだらだれがあんたを守るんだ」
「それはそうだ」
 ふふ、とベンジャミンは笑みを溢す。
「こんな怪我くらい、ベン、あんたを守る為ならなんでもない。あのカス野郎だって周りが止めなきゃ殺せたってのに。そりゃあ神聖だったり美しいものを穢したくなるのは人間の性だが、その対象を傷つけるなんて言語道断だ。奴は地獄の底で腐るのがお似合いだ」
 ああ、しまった。リンは眉間を抑えた。マイク・バニングは優秀だが、思考が極端過ぎる。オーバーキルで除隊寸前に軍から拾った時からそうだった。PPD立て直しに必要な人材だが……マイクバニングカウンセリング40時間ーーと、ベンジャミンがクスクス笑い出した。
「私は神聖で美しい?」
 悪戯っぽく笑ってからかうベンジャミンにマイクは滅多になく顔を赤くし、しどろもどろに言う。
「そ、それは言葉のあやで……いや、確かにあんたはきれいだが、うぅ……」
「ははは!ありがとう?でいいのかな?マイク、きみは面白いな!」
 唸りながら助けを乞う男の視線をリンは無視した。ベンジャミンは事件後初めて心からの笑顔を見せたのだ。バニングはセラピードッグとしても役立つようだ。そう判断して4分後の予定までリンはベンを新しい玩具で好きに遊ばせておくことにした。多少毛色の違う犬でも、主人がそれを気に入ればいいのだ。あの二人は中々いいコンビかもしれない、リンはそう感じた。

「妻には内緒にしておこう」
 こっそりベンジャミンはウインクしてマイクに囁いた。
「そうしてくれ……」
 これが二人の友情の始まりだった。

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