マイクとベンのはなし(たぶんデキてない)
誰も得をしない


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「マイク、ちょっと」
 忙しない公務を終え、人気の無くなったオーバルオフィスでベンに名を呼ばれた。呼んだ当の本人はくるりと椅子ごと向こうを向いてしまった。こうされるとばかでかい最高級のプレジデントチェアの向こう側は監視カメラからさえも死角になる。マイクが訝しがりながらも傍へ行くと、人の良さそうな笑みを浮かべ手招きされる。渋々彼の正面に立つと、にこにこしながら両手を握られ、思わず困惑した声を上げる。
「サー、」
「警護対象から触られたんなら、君らのルール違反には当たらないだろう?」
 相変わらず笑いながらベンは言った。
「しかし不適切だと思うが?」
 ついにベンはクスクス笑いだした。
「マイク、君はどうやって私をころす?」
 は、マイクは腹の中に氷の塊がぶち込まれたように血の気が引くのを感じた。彼は、このひとは、一体何を言っている?
「なあ」
 マイクを悪戯っぽく見上げながらベンは楽しそうに続ける。
「銃やナイフは使ってくれるなよ。こうやって、」
 そう言いながらマイクの両手を首に添えさせた。
「あぁ……」
 ベンはまるでセックスをしているかのように感じ入った声をあげ、とろりと融けた瞳でマイクを見つめる。
「こうやって、私の眼をみて、やれよ」
 にこりと笑った。まるで悪魔のように。マイクは慌てて両手を引いた。
「さて、今日はもう休もうかな」
 さっきまでの妙なやり取りなど無かったかのように朗らかにベンは言いながら立ち上がった。
「マイク?どうした。移動するぞ」
「あ、ああ……」
 今のは何だったんだ?マイクの頭は混乱を極めていたが、恐らく回答を得られることはないだろう。そんな気がした。せめて、今の手の震えだけでも誤魔化せればいいが。そう思いながらマイクはきつく両眼を閉じた。

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