ついったで見かけた設定が最高すぎた



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 美しい夏が過ぎ、ローシエンナのオレンジ色に街が染まった頃、アーロンの勤める保育園への新学期が始まった。
「やあ、こんにちは」
 麗しいブロンドを輝かせながら、アーロンは生徒の向かえのジェラルドに微笑みかける。
 いつも思うが、この色男に結婚して娘がいるなんて!ひと目見ておんな泣かせの遊び人だと思った印象を心の中で謝罪とともに訂正せざるを得なかった。
「シルビア! お迎えだよ!」
 黄色にピンクの花を散らしたドレスで自分の名を呼び、走ってきた天使はジェラルドの脚にしがみついて宣言した。
「わたしねーせんせーと結婚するの!」
「ほんとに? 俺を捨てて?」
「あはは、光栄だなあ」
「んふふ! じゃあせんせーの次に結婚してあげる!」
「俺は二回目? 来いこの悪女め!」
 ジェラルドは笑いながらシルビアを高く抱き上げる。
「きゃー! あはははは!」
「ほら挨拶して」
「せんせーさよーなら!」
「はい、さようなら」
「じゃ、ありがとうございました」
「ええ、また明日」
 まるで映画のような眩しい一幕を終えると、アーロンはようやく一息つける。
 他の保護者は平気なのに、彼の前では、なぜだか緊張する。


 週が明けて、子供たちが鐘を鳴らすように声を上げて校舎に転がり込んでくる。勿論シルビアも。
「おはようございます先生」
「おはようございます、バトラーさん」
 相変わらず惚れ惚れするような男前だ。暫く見つめてしまったのを誤魔化すように話をする。
「毎朝大変ですね、お父さんも。かっこいいからシルビアはいつも自慢してますけど!」
 するとジェラルドはからかうように眉を上げ、笑いながら言う。
「俺が父親に見えます? はは、心外だな、叔父ですよ。姉の代わりに送り迎えを」
「え、あ、……」
 そう言えば保護者リストに書いてあった気がする。アーロンは頬に血が溜まるのをまざまざと感じた。
「申し訳ない! てっきり……」
「ふは、いいですよ別に!先生は何歳ですか?」
「35です」
「俺は34。たった一年の違いですね」
 そう言ってジェラルドは眼を細めて笑う。そしてなにか思いついたような顔になった。
「そうだ、あなたが僕をシルビアの親だって勘違いしてたお詫びにコーヒーでもどうです?」
「え……そんな」
「俺はチョー傷つきましたよ」
 そう言って眉を顰め大げさな表情をするジェラルドに思わず笑い、誘いを受けてしまった。これまでアーロンに粉をかけてくる親たちは居たが、なぜかジェラルドはうまく躱せ無かった。
それからというもの、二人は思ったより仲良くなり、アーロンはすっかりジェラルドについて詳しくなってしまった。彼が大手弁護士事務所のシニア・マネージャーで結構優雅な生活をしていること、それから自分と同じレイダースサポーターでオペラが好き。そして自分と違ってトマトが苦手だとか、映画の好みだとかそういうことに。勿論、ジェラルドも同じくアーロンに詳しくなった。
 幼稚園の休みの日にアーロンが家で寛いでいると、ジェラルドからのメッセージが届いた。
『今夜食事でもどうですか?』
『いいね』
『オーケー、7時にKashavalに予約しますね。うまいチーズフォンデュが食べたいって言ってましたよね?』
 この男はどうしてこう一々スマートなのか、アーロンは苦笑いしてしまった。
『じゃ、7時に』
『楽しみにしてます!』

 ジェラルドの連れてきてくれた気安いレストランの味は、アーロンが昔住んでいた欧州を思わせる美味さだった。
 彼は手慣れた様子で旨い食事とワインを選び、普段飲まないワインを呑むくらいアーロンはめったにないほどいい気分だった。
「先生知ってる? チーズフォンデュでパンを落とすと隣の人にキスしなきゃいけないって」
「知ってる」
 アーロンはクスクス笑いながらパンを落としたジェラルドに頬を差し出す。するとジェラルドはアーロンの顎に手を当て、いやにセクシーなキスを落とした。それを受けた人間が全て恋に堕ちるような、そんなキスだった。
「あ、」
 ジェラルドは徐にアーロンの左耳に手を添える。
「ピアス跡だ」
 これ以上恥ずかしいことがあるだろうか?久々に他人に触れられた耳からゾクゾクと腰まで痺れが走る。
「先生、割とやんちゃしてた?」
「……若気の至りだよ。父親に家から放り出された」
「ふふ、厳しいお父上だ!」
「不躾な事を聞いても?」
 アーロンは尋ねる。
「どうぞ」
「僕はそうなんだけど……君はゲイなの?」
 ジェラルドは魅力的な男だ。彼に愛される人間はさぞ鼻が高いだろう。だからこそ、先に予防線を張りたいと思ったのだ。彼と恋愛関係なるつもりは毛頭無いが、ゲイのアーロンは彼みたいなセクシーでヘテロの男に振り回されてるのはもう懲り懲りだった。
 当のジェラルドはと言うと、面食らってガシガシと頭を掻いて唸っている。少々気の毒ではあった。
「正直に言うと、分からない」
「というと」
「僕は自他共に認める女好きなんだが……貴方は別だ。綺麗だと思うし、手を取ってキスしたい。先生の美しい瞳に僕だけが映っているのはさぞいい気分だとおもう。ダメだ、そう、僕はあなたに恋してるよ、先生」
 一気にアーロンの体温が上昇した。顔は真っ赤になっていることだろう。まさか、初めてのディナーでそんなに直球に告白されるとは。赤くなった顔を誤魔化すように額を片手で擦る。落ち着け、今までこんなこと、上手く流して来れただろう?
「ふ、上手だねジェラルド」
「ジェリーって呼んでくれ、アーロン」
 彼に名前を呼ばれた瞬間、心臓が小さく跳ねた。まずい、これは。
「仲のいい友人から、ならいいよ」
胸の鼓動をなんとか収め、何でもないといったようにアーロンは言った。
「やった! そうだ、METのガラ・コンサートのチケットが手に入ったんだ。まだ相手が決まって無くて……プレゼントってことで一緒に行ってくれないか?」
「それは凄い!!今年はフィガロの結婚だろ? 大好きなんだ、喜んで!」

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「ジェリー」
 ガラの日、ジェラルドはため息が出るくらいパリッとしたタキシードでアーロンの家にを迎えに来た。
「約束通りタキシードもって来たよ」
「レンタル?」
 いやにさわり心地の良すぎるドスキンのそれを受け取りながらアーロンは尋ねた。
「いや? あなたへの誕生日プレゼントだけど?」
「は? 誕生日はまだまだ先だし、こんな高級そうなもの貰えないよ」
 アーロンがそう言うと、やっぱりそう言うか、みたいに苦笑してジェラルドは言う。
「じゃあ、35年分ってことで受け取ってくれないか?」
「でも」
「早く着替えて!送れてしまう」
 まだ異論を言い出しそうなアーロンを微笑いながら急かして言った。

 憮然としてタキシードを身に纏ったアーロンはまるで俳優みたいにゴージャスだった。
「サイズはぴったりみたいだな、さすが俺。腰回りはちょっと修正は要るが……」
「早く行こう、遅刻するって言ったのは君だよ」
 上から下まで値段をつけるように眺められ、とても居心地悪そうにアーロンは言った。

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