よかった。半ば強引にプレゼントを押し付け連れて来たが、アーロンは喜んでくれた様だ。ジェラルドは気取られないように胸を撫で下ろした。眼を輝かせてオペラの感想を語っている彼は、深紅のカーペットにクリスタルのシャンデリアで飾られた会場の煌びやかさと合いまって眩いほどだった。

「あら、ジェラルド!」
「ソフィー! 久しぶりだな!」
 声を掛けてきた豪奢なレースが身体に貼り付いたようなセクシーなヴァレンチノを着た美女とジェラルドは挨拶のキスを交わす。
「全然連絡くれないんだから。この薄情者!そちらは?」
 そう笑いながらいう彼女にジェラルドは自慢のアーロンを紹介する。
「よろしく」
「こちらこそ! ああそうだジェラルド、ジュリア達には会った?」
「来てるのか」
「勿論!確か……あ、いた。ジュリア!アレクシス!」
 友人達としばし挨拶を交わしていると、アーロンにそっと肩を叩かれた。
「先に出てる、失礼」
 そう言うと彼はジェラルドが声をかける間もなく踵を返して正面玄関へと向かってしまう。
「アーロン? ……悪いみんな、またな」
 お座なりに女性陣に挨拶するとジェラルドはアーロンを追い人混みのなか駆け出した。

「アーロン!」
 正面階段を駈歩で降りるアーロンの腕を捕まえると、彼は振り向き、ジェラルドに口付ける。

 世界が止まった音がした。

「……帰る」
「え? あ、ああ、送るよ」

 車内には気まずい沈黙が満ちている。ジェラルドはアーロンの様子を伺うが、街灯の流れるオレンジ色の灯りに照らされても彼の表情からは何も読み取れなかった。
「男が人に服を贈る意味を知ってる?……それを脱がしたいってことらしいよ」
 おもむろにアーロンが言う。静かな声だった。
「え、いや俺はそんな……」
 再び沈黙。
 どうしたというのだろうか。ジェラルドは焼きもきして、車を停めて彼に謝った方がいいのかとすら思っているとアーロンの微かなため息が聞こえた。
「……嫉妬したんだ。彼女達に」
 ジェラルドは驚いて眼を見張って彼を見遣った。そんな、それじゃあ。
「独占欲を抱いたらそれは恋だ」
 独り言のように言うアーロンを赤信号が照らす。ジェラルドはブレーキを踏むと彼をまじまじと見てしまう。
「降参だよ、ジェラルド」
 アーロンはそう言うと困った様な顔をジェラルドに向けた。ようやく二人の目が合い、吸い寄せられる様にキスをした。口付けを深くしようとした時、後ろからのけたたましいクラクションで信号が変わったのを知る。ジェラルドは驚いて車を発進させ、思わず二人で笑ってしまった。その後に訪れた沈黙は、先ほどとと打って変わって心地よいものだった。

「今日は楽しかったよ。ありがとう、おやすみ」
 アーロンはそう言って後ろ手にドアを閉めようとする。その扉をジェラルドは抑えた。
「プレゼントの包みをほどいても……?」
 後ろ姿にとっておきの声で囁く。アーロンはその白い首筋まで赤く染めて俯いている。その扇情的な色にジェラルドが口付けると、アーロンはもう耐えられないといった色めいた溜息をついた。

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