コナマフ
思春期の初恋の気付き。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
マーフィーが兄をいろんな意味で愛していると気がついたのはちょうど髪を伸ばし始めた頃だった、前髪があると幼く見えるので。手に余る感情に怯えたマーフィーは自然とコナーから距離をおくようになった。時間がどうにかしてくれる、そう信じていた。年相応に見られたいほどには幼かったのだ。
「マーフ」
耳に馴染む声に振り向く。声変わりする前のも好きだったけれど、今の声の方が好きだ。そう思ってすこし吃驚した。好きだって。かたちにしてみるとそれは、心臓がぎゅっと縮まる気がする。思ってたよりおれってロマンチストだ、そう考えてちょっと微笑った。
なにか、自分のなかのなにかを刺激しないようにできるだけそっと振り向いた瞬間にあ、だめだ、そう感じた。だめだおれこの人のこと好きすぎる。
時間なんかじゃ解決できないことを悟った。永遠に、かないそうにない。
何だよ、俺の顔になんかついてんのか?そんなとんちんかんな事を尋ねる声(それはそれは甘く低い声でひびくのだ!)、覗き込むようにこちらをみる空色、冬のまぶしい太陽でひかる髪なんかが押し寄せてきて、
(ちかちかして目が痛い)
その痛みまで甘いのだ。いよいよばかだ。意を決してマーフィーは口をひらいた。きんとした空気に全部の水分を持っていかれた、気がした。
「おれのものになってよ、コナー。」
思ったより切なそうな声がでたことをマーフィーが恥ずかしがる前に、コナーは指先でマーフィーの頬をちらりとかすめて(それだけでそこに熱が集まるのを感じた)一瞬空気を溶かすみたいに笑ってみせて、言葉をするりとすべらせた。
「なあ、とっくにお前のものだって言ったらどうする?」
鼻のおくの方がつんとしたけれど、予想に反して涙なんかでなかった。
うそだ。そうきっと、永遠にコナーには追いつけやしないと思うのだ。
思春期の初恋の気付き。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
マーフィーが兄をいろんな意味で愛していると気がついたのはちょうど髪を伸ばし始めた頃だった、前髪があると幼く見えるので。手に余る感情に怯えたマーフィーは自然とコナーから距離をおくようになった。時間がどうにかしてくれる、そう信じていた。年相応に見られたいほどには幼かったのだ。
「マーフ」
耳に馴染む声に振り向く。声変わりする前のも好きだったけれど、今の声の方が好きだ。そう思ってすこし吃驚した。好きだって。かたちにしてみるとそれは、心臓がぎゅっと縮まる気がする。思ってたよりおれってロマンチストだ、そう考えてちょっと微笑った。
なにか、自分のなかのなにかを刺激しないようにできるだけそっと振り向いた瞬間にあ、だめだ、そう感じた。だめだおれこの人のこと好きすぎる。
時間なんかじゃ解決できないことを悟った。永遠に、かないそうにない。
何だよ、俺の顔になんかついてんのか?そんなとんちんかんな事を尋ねる声(それはそれは甘く低い声でひびくのだ!)、覗き込むようにこちらをみる空色、冬のまぶしい太陽でひかる髪なんかが押し寄せてきて、
(ちかちかして目が痛い)
その痛みまで甘いのだ。いよいよばかだ。意を決してマーフィーは口をひらいた。きんとした空気に全部の水分を持っていかれた、気がした。
「おれのものになってよ、コナー。」
思ったより切なそうな声がでたことをマーフィーが恥ずかしがる前に、コナーは指先でマーフィーの頬をちらりとかすめて(それだけでそこに熱が集まるのを感じた)一瞬空気を溶かすみたいに笑ってみせて、言葉をするりとすべらせた。
「なあ、とっくにお前のものだって言ったらどうする?」
鼻のおくの方がつんとしたけれど、予想に反して涙なんかでなかった。
うそだ。そうきっと、永遠にコナーには追いつけやしないと思うのだ。
コナマフ
恋未満の思春期の話。
「コナー、コナー、どうしよう」
怖いんだ、自分の声が時々知らない大人みたいに聞こえるんだ、そういってマーフィーはコナーの肩に顔を埋めた。
部屋に母親の焼くパイの匂いがする頃の話だ。
「どうして」
この前は早く大人になりたいと笑ってたじゃないか。そんな言葉ばかり巡って自分の非力さに吐き気がした。
「かわってしまう、どうしていつまでも子供のままではいられないの。この腕は足はどんどん伸びて骨張って、身体の変化についていけないよ、」
コナーが全然知らない人に見えるんだ、そう言ってとうとうマーフィーは泣きだした。
「マーフ」
できるだけやわらかい声をだす。コナーはマーフィーの涙に動揺している自分に気がついた。
「俺がいるよ、どんな時だって俺はお前を見つけてきただろう。お前が迷子になった時も、ジュニアハイでばかな仮装をしたときも。お前が自分の事を分からなくなっても俺にはお前が分かるよ。」
駄々をこねるみたいに首を振る。コナーは片割れの幼い動作にどうしようもなく愛おしさを覚えた。これは庇護欲だろうかそれとも独占欲だろうか、そう思ったが舌触りが悪いので愛ということにした。もっとも、愛がどんなものかなど分からないのだけれど。
「俺のことはお前が見つけてくれるだろ?」
できるだけそっと頬に手をそえる。右の目蓋にキスを一つ、目尻には二つ。涙は塩味だった。悲しみの濃度は濃い。
「コナー」
見上げてくる赤い目に、鼻にかかった甘い声に(こう言い切ってしまうとあれかもしれないが)、欲情した。
はやくはやく、はやくしないとしんでしまう!
「、マーフ」
だめなのだ。マーフィーが泣くのも痛がるのもいやだけれど望むことも叶えてやりたいのだ。
身体に隙間のできないようにきつく抱き合って、唇を寄せ合い、舌を絡める。ひとつ深くうちつける度に、魂がひとかけら、削られる感覚。
きっと削られて、それでようやくひとつになるのに適したかたちになるのだ。
倫理も常識も関係がないのである。
ただただひとつになろうとするだけ、それだけなのである。
恋未満の思春期の話。
「コナー、コナー、どうしよう」
怖いんだ、自分の声が時々知らない大人みたいに聞こえるんだ、そういってマーフィーはコナーの肩に顔を埋めた。
部屋に母親の焼くパイの匂いがする頃の話だ。
「どうして」
この前は早く大人になりたいと笑ってたじゃないか。そんな言葉ばかり巡って自分の非力さに吐き気がした。
「かわってしまう、どうしていつまでも子供のままではいられないの。この腕は足はどんどん伸びて骨張って、身体の変化についていけないよ、」
コナーが全然知らない人に見えるんだ、そう言ってとうとうマーフィーは泣きだした。
「マーフ」
できるだけやわらかい声をだす。コナーはマーフィーの涙に動揺している自分に気がついた。
「俺がいるよ、どんな時だって俺はお前を見つけてきただろう。お前が迷子になった時も、ジュニアハイでばかな仮装をしたときも。お前が自分の事を分からなくなっても俺にはお前が分かるよ。」
駄々をこねるみたいに首を振る。コナーは片割れの幼い動作にどうしようもなく愛おしさを覚えた。これは庇護欲だろうかそれとも独占欲だろうか、そう思ったが舌触りが悪いので愛ということにした。もっとも、愛がどんなものかなど分からないのだけれど。
「俺のことはお前が見つけてくれるだろ?」
できるだけそっと頬に手をそえる。右の目蓋にキスを一つ、目尻には二つ。涙は塩味だった。悲しみの濃度は濃い。
「コナー」
見上げてくる赤い目に、鼻にかかった甘い声に(こう言い切ってしまうとあれかもしれないが)、欲情した。
はやくはやく、はやくしないとしんでしまう!
「、マーフ」
だめなのだ。マーフィーが泣くのも痛がるのもいやだけれど望むことも叶えてやりたいのだ。
身体に隙間のできないようにきつく抱き合って、唇を寄せ合い、舌を絡める。ひとつ深くうちつける度に、魂がひとかけら、削られる感覚。
きっと削られて、それでようやくひとつになるのに適したかたちになるのだ。
倫理も常識も関係がないのである。
ただただひとつになろうとするだけ、それだけなのである。
コナマフ
微糖な日常。
ーーーーーーーーーーーーーーー
食料をコンビニで買い占めてモーテルに帰る。もうここが何個目の町かなんてコナーには分からない。
「あーあ、パラダイスにいきてえなー」
マーフィーはモーテルに帰るまでの短い距離を我慢できずに、ギネスを呷りながらそんな事を呟いた。
コナーは、その言葉が指しているのが現世での(肉体的な)ものなのか、それとも天国のことなのか判らなかったので黙っていた。
前者であれば明日は仕事なのでできるだけ遠慮したいし、後者であれば自分達を根底から覆してしまうのでなおさら黙り込んでしまう。
「あ、見ろよコナー、俺たちだぜ。」
そんなコナーには構いもせず、マーフィーは街頭テレビを顎でしゃくった。
そこには合衆国の地図が映し出されており、親子の足取りが赤く印されていた。「俺たちって働き者だなあ!」
マーフィーが感動したように言う。それにはコナーも同意する。テレビは画面を変え、ボストンの時の似顔絵を大きく映していた。
「はは、いつ見ても似てねえな」
お前誰だ?などと言いながらお世辞にも美しいとはいえないコナーと思われる似顔絵を突く。
「行くぜ」
部屋に帰り、コナーがギネスをやっと飲み始めてもまだ親子のニュースは続いていた。「こいつら本気でこんなことやってんのか?これじゃあ俺たち捕まんねぇよ!」ジャーナリズムはどこ行った?なんて笑って三本目のギネスを開け、返事が返ってこない事を訝しく思ってコナーを見る。
「コナー?」
アイ、小さく呟いたおざなりな返事に気分を悪くする。
「聞いてんのかよ」
もう一度適当な返事をしてコナーが話し始める。こうなると誰にも止められないのでマーフィーは面白がってリモコンを握って黙る。
「こいつらにジャーナリズムなんかねえよ。そんなもんが今まで存在したことはない。」
ギネスを飲みながら適当に聞き流す。画面はやっとニュースが終わり、軽薄な宣伝をがなりたてている。
「見ろよ、ついさっきまで俺たちに向かって人の命を何だと思っているんだ、なんて弾劾してた奴らが今はこれだ。つまりこいつらはなんでもいいのさ。俺たちのことも、裁かれた悪人のことも。真実を伝える気なんてさらさらねぇんだ。俺たちだってこいつらの餌食なんだよ。なぁ、俺たちは本当にユートピアを迎えられるんだろうか?」
「コナー、お前酔ってんだろ」
酔ってないと否定をしようとしてマーフィーの方を見ると涙を流していて、その顔は笑っていたのでどうも悲しそうにコナーには見えた。そうして掛けてやる言葉も見当たらないので、、
パラダイスにいきてえなあ!
微糖な日常。
ーーーーーーーーーーーーーーー
食料をコンビニで買い占めてモーテルに帰る。もうここが何個目の町かなんてコナーには分からない。
「あーあ、パラダイスにいきてえなー」
マーフィーはモーテルに帰るまでの短い距離を我慢できずに、ギネスを呷りながらそんな事を呟いた。
コナーは、その言葉が指しているのが現世での(肉体的な)ものなのか、それとも天国のことなのか判らなかったので黙っていた。
前者であれば明日は仕事なのでできるだけ遠慮したいし、後者であれば自分達を根底から覆してしまうのでなおさら黙り込んでしまう。
「あ、見ろよコナー、俺たちだぜ。」
そんなコナーには構いもせず、マーフィーは街頭テレビを顎でしゃくった。
そこには合衆国の地図が映し出されており、親子の足取りが赤く印されていた。「俺たちって働き者だなあ!」
マーフィーが感動したように言う。それにはコナーも同意する。テレビは画面を変え、ボストンの時の似顔絵を大きく映していた。
「はは、いつ見ても似てねえな」
お前誰だ?などと言いながらお世辞にも美しいとはいえないコナーと思われる似顔絵を突く。
「行くぜ」
部屋に帰り、コナーがギネスをやっと飲み始めてもまだ親子のニュースは続いていた。「こいつら本気でこんなことやってんのか?これじゃあ俺たち捕まんねぇよ!」ジャーナリズムはどこ行った?なんて笑って三本目のギネスを開け、返事が返ってこない事を訝しく思ってコナーを見る。
「コナー?」
アイ、小さく呟いたおざなりな返事に気分を悪くする。
「聞いてんのかよ」
もう一度適当な返事をしてコナーが話し始める。こうなると誰にも止められないのでマーフィーは面白がってリモコンを握って黙る。
「こいつらにジャーナリズムなんかねえよ。そんなもんが今まで存在したことはない。」
ギネスを飲みながら適当に聞き流す。画面はやっとニュースが終わり、軽薄な宣伝をがなりたてている。
「見ろよ、ついさっきまで俺たちに向かって人の命を何だと思っているんだ、なんて弾劾してた奴らが今はこれだ。つまりこいつらはなんでもいいのさ。俺たちのことも、裁かれた悪人のことも。真実を伝える気なんてさらさらねぇんだ。俺たちだってこいつらの餌食なんだよ。なぁ、俺たちは本当にユートピアを迎えられるんだろうか?」
「コナー、お前酔ってんだろ」
酔ってないと否定をしようとしてマーフィーの方を見ると涙を流していて、その顔は笑っていたのでどうも悲しそうにコナーには見えた。そうして掛けてやる言葉も見当たらないので、、
パラダイスにいきてえなあ!
コナマフ
病みマフの独白。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
銃口を突きつけられた豚が何かを喚く。聞き取るつもりも無いからか、意味不明の言語に聞こえる。
それに向かってコナーが優しい声で、冷たい目をして話しかける。話しかける?違う、言葉を浴びせかける。本人が聞いていようがいまいが関係ないからだ。
「死は、畏れるべきものではない。なぜなら当人にとってそれは悲劇ではなく終演であるからだ。それが悲劇であるのは遺された者にとってのみであって、お前は何も心配する必要は無い。お前は今から死ぬのだから!」
今日は特に饒舌だ。たぶん俺が怪我したからだな、かすり傷だけれども。
この時のコナーは奇跡だ。端から見てるだけでぞくぞくする。
あの目!
生まれてから一度も向けられたことがないあの氷みたいな目を見ることができる受刑者達に、俺は嫉妬する。
「いつまでさぼってんだ、来いよ」
冷たい声、優しい目。
「やだね」
あの目で見てくれなくちゃ、嫌だ。
「マーフ。」
呆れた声、愛情の籠もった目。
「嫌いになってみてよ」
俺のこと。あの目で見てくれる?銃口を向けてくれる?
「ばか」
苦しそうな顔、苛立った手の動き。
「俺の言うことが聞けねえのかよ?」
情けない事を言うから少し腹が立った。情けねえ声だすんじゃねえよ、俺の好きなのはそんなお前じゃない。ばか。情けねえのは俺だけで十分だ。
「言うことを聞くのが愛なわけ?」
ざまあみろ。ははは。
だからこの涙は嘘なのだ。
(不条理な世界にいるから、失うことが怖いわけです、ユーノウブラザー?愛も、死も。わかるかな。強烈なメランコリック。泣いたってセックスしたって変わらないわけです。俺が女の子ならよかったのかな、兄弟じゃなけりゃよかったのかな。まあこの場合女の子じゃなくてよかったんだけど。確かにセックスの後に空しさはあるけれど仕方ないじゃないか、それしか無いんだから、一つになりたいんだから。あーあ、俺はただもっとプリミティブな、つまり原始的な気持ち、好意、を抱いただけでであってその対象のこの人に勝手に家族だとか性別だとかのオプションがついてきたってだけなのだ。オプションだけは返品できませんか?できませんか。
自己中心的な世界は、自己中心的な俺を許さない。
それなのに、あとからついてきたそれがひどく大きな立ちはだかる、なんて、乗り越えられない障害なのだ。
俺は、ただあんたのことを愛してるだけなのに。
死ぬ時はあんたに殺されたいんだよ、ねえ。
ああ、絶望。絶望。)
病みマフの独白。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
銃口を突きつけられた豚が何かを喚く。聞き取るつもりも無いからか、意味不明の言語に聞こえる。
それに向かってコナーが優しい声で、冷たい目をして話しかける。話しかける?違う、言葉を浴びせかける。本人が聞いていようがいまいが関係ないからだ。
「死は、畏れるべきものではない。なぜなら当人にとってそれは悲劇ではなく終演であるからだ。それが悲劇であるのは遺された者にとってのみであって、お前は何も心配する必要は無い。お前は今から死ぬのだから!」
今日は特に饒舌だ。たぶん俺が怪我したからだな、かすり傷だけれども。
この時のコナーは奇跡だ。端から見てるだけでぞくぞくする。
あの目!
生まれてから一度も向けられたことがないあの氷みたいな目を見ることができる受刑者達に、俺は嫉妬する。
「いつまでさぼってんだ、来いよ」
冷たい声、優しい目。
「やだね」
あの目で見てくれなくちゃ、嫌だ。
「マーフ。」
呆れた声、愛情の籠もった目。
「嫌いになってみてよ」
俺のこと。あの目で見てくれる?銃口を向けてくれる?
「ばか」
苦しそうな顔、苛立った手の動き。
「俺の言うことが聞けねえのかよ?」
情けない事を言うから少し腹が立った。情けねえ声だすんじゃねえよ、俺の好きなのはそんなお前じゃない。ばか。情けねえのは俺だけで十分だ。
「言うことを聞くのが愛なわけ?」
ざまあみろ。ははは。
だからこの涙は嘘なのだ。
(不条理な世界にいるから、失うことが怖いわけです、ユーノウブラザー?愛も、死も。わかるかな。強烈なメランコリック。泣いたってセックスしたって変わらないわけです。俺が女の子ならよかったのかな、兄弟じゃなけりゃよかったのかな。まあこの場合女の子じゃなくてよかったんだけど。確かにセックスの後に空しさはあるけれど仕方ないじゃないか、それしか無いんだから、一つになりたいんだから。あーあ、俺はただもっとプリミティブな、つまり原始的な気持ち、好意、を抱いただけでであってその対象のこの人に勝手に家族だとか性別だとかのオプションがついてきたってだけなのだ。オプションだけは返品できませんか?できませんか。
自己中心的な世界は、自己中心的な俺を許さない。
それなのに、あとからついてきたそれがひどく大きな立ちはだかる、なんて、乗り越えられない障害なのだ。
俺は、ただあんたのことを愛してるだけなのに。
死ぬ時はあんたに殺されたいんだよ、ねえ。
ああ、絶望。絶望。)
コナマフ
モブ視点。お薬のやり取りは適当です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なぜ銃口が私を狙っているのだろう。
いつも同じ毎日の繰り返し、強請り 転売 ヤクの買い付け、偽造 ポン引き カジノの運営。
そんな事を繰り返していればボスの座が転がり込んで来るはずだった。何せ私は優秀だったし、黙る事を知っていた。どの世界でも必要なのはそれだ。
ボスになればこの毎日が変わるはずだと思って今日までやって来たのだ。そう、今日まで。
いつもの時間、いつもの場所、いつもの面子、いつもより少し高い値段。簡単な取引だった。
「何キロだ?」
「ロング・トンで300」
「量れ」
いつもの会話。
「5足りません」
そこで私はポリスサービスシックス(私はクラシカルな人間だし、ユーモアのセンスがあるのだ)を取出し、アジア人の左足を撃つ。先月は右足だった。そういった多少の差異はある。
「私は細かい事にこだわる方でね」
そういつもの台詞を言い、5ポンドの隠し場所へ寄ろうとした、その時、機嫌のよさそうな笑い声が響いた。変化はいつも笑い顔でやってくる。
「なんだ、仲間割れじゃねえのかよ?」
誰だ、その基本的な問いを発する前に手負いの売人と三人の部下は赤い液体を撒き散らしていた。怪しまれない様に警備を薄くしていたのが裏目にでた。
なぜ銃口が私を狙っているのだろう。あの暗い穴はいつだって私の味方だったはずなのに。
「あーあ、やりたい放題じゅねえか!悪い子には天罰が下るんだぜ?」
その声に視線をあげると、ひどく美しい青年が二人立っていた。まさかこの二人が私の邪魔を、殺人を犯したのか?
「君たちは、誰だ?」
冷静に、しかも全ての状況を把握しなければならない。
私と青年たちの距離はおよそ50、とても走って逃げられるような間隔ではない。しかもここは絨毯の廃工場である。出口の一つは使い物にならず、もう一つは二人に塞がれている。
八方塞がりか。
「俺たち?そうだな、お前等の好きな言い方をすりゃあ天使だよ」
「天使は人殺しをしない」
冗舌な方に言う。先程から喋っているのはダークブロンドの方だ。間違えるものか、この甘い声は一度聞けば忘れられないだろう。
「何言ってんの?黙示録読んだことねえのかよ?俺たちは主の命があれば裁きを下すんだぜ!はは、跪けよ。おまえらみたいなのが増えすぎた。主もお怒りだ!」
「おい、死人と口聞いてどうすんだ」
初めてハニーブロンドの方が声をだした。二人が向き合う様子は一つの宗教画の様で、私を殺そうとしている相手にもかかわらず見惚れてしまう。
「こんな事をして、何になるんだい?」
時間を稼がなければ。何か突破口を見つけることができるかもしれない。
「誰かが」
コルトガバメントの弾倉を取り替えながらハニーブロンドが言う。
「憎しみの連鎖を断ち切らねばならない。この恐怖と暴力に満ちた世界を。」
「主のために守らん」
そうして哀しげに見下ろされ聞き慣れない祈りを聞いていると、私は腹の底から絶望がふつふつと沸き上がるのを感じた。膝が痛い。
『魂はひとつにならん』
「暴力を、暴力を以て制するのか」
『父と子と聖霊の』
彼らがほほえむ姿はまるで天使だった。
『御名において』
最後に目に映ったのは、私を形成していた血と脳、織りかけで時が止まった絨毯だった。
絨毯には美しい女の人と一角獣。可哀相に、ユニコーン。人なんか一皮剥けば皆同じような汚らしいものなんですよ。
モブ視点。お薬のやり取りは適当です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なぜ銃口が私を狙っているのだろう。
いつも同じ毎日の繰り返し、強請り 転売 ヤクの買い付け、偽造 ポン引き カジノの運営。
そんな事を繰り返していればボスの座が転がり込んで来るはずだった。何せ私は優秀だったし、黙る事を知っていた。どの世界でも必要なのはそれだ。
ボスになればこの毎日が変わるはずだと思って今日までやって来たのだ。そう、今日まで。
いつもの時間、いつもの場所、いつもの面子、いつもより少し高い値段。簡単な取引だった。
「何キロだ?」
「ロング・トンで300」
「量れ」
いつもの会話。
「5足りません」
そこで私はポリスサービスシックス(私はクラシカルな人間だし、ユーモアのセンスがあるのだ)を取出し、アジア人の左足を撃つ。先月は右足だった。そういった多少の差異はある。
「私は細かい事にこだわる方でね」
そういつもの台詞を言い、5ポンドの隠し場所へ寄ろうとした、その時、機嫌のよさそうな笑い声が響いた。変化はいつも笑い顔でやってくる。
「なんだ、仲間割れじゃねえのかよ?」
誰だ、その基本的な問いを発する前に手負いの売人と三人の部下は赤い液体を撒き散らしていた。怪しまれない様に警備を薄くしていたのが裏目にでた。
なぜ銃口が私を狙っているのだろう。あの暗い穴はいつだって私の味方だったはずなのに。
「あーあ、やりたい放題じゅねえか!悪い子には天罰が下るんだぜ?」
その声に視線をあげると、ひどく美しい青年が二人立っていた。まさかこの二人が私の邪魔を、殺人を犯したのか?
「君たちは、誰だ?」
冷静に、しかも全ての状況を把握しなければならない。
私と青年たちの距離はおよそ50、とても走って逃げられるような間隔ではない。しかもここは絨毯の廃工場である。出口の一つは使い物にならず、もう一つは二人に塞がれている。
八方塞がりか。
「俺たち?そうだな、お前等の好きな言い方をすりゃあ天使だよ」
「天使は人殺しをしない」
冗舌な方に言う。先程から喋っているのはダークブロンドの方だ。間違えるものか、この甘い声は一度聞けば忘れられないだろう。
「何言ってんの?黙示録読んだことねえのかよ?俺たちは主の命があれば裁きを下すんだぜ!はは、跪けよ。おまえらみたいなのが増えすぎた。主もお怒りだ!」
「おい、死人と口聞いてどうすんだ」
初めてハニーブロンドの方が声をだした。二人が向き合う様子は一つの宗教画の様で、私を殺そうとしている相手にもかかわらず見惚れてしまう。
「こんな事をして、何になるんだい?」
時間を稼がなければ。何か突破口を見つけることができるかもしれない。
「誰かが」
コルトガバメントの弾倉を取り替えながらハニーブロンドが言う。
「憎しみの連鎖を断ち切らねばならない。この恐怖と暴力に満ちた世界を。」
「主のために守らん」
そうして哀しげに見下ろされ聞き慣れない祈りを聞いていると、私は腹の底から絶望がふつふつと沸き上がるのを感じた。膝が痛い。
『魂はひとつにならん』
「暴力を、暴力を以て制するのか」
『父と子と聖霊の』
彼らがほほえむ姿はまるで天使だった。
『御名において』
最後に目に映ったのは、私を形成していた血と脳、織りかけで時が止まった絨毯だった。
絨毯には美しい女の人と一角獣。可哀相に、ユニコーン。人なんか一皮剥けば皆同じような汚らしいものなんですよ。
コナマフAU
神父マーフィー/16歳コナーのお話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「戦地へ行きます」
「そう、終に、」
「きっと前線です。あなたの教えに背いて人を殺すでしょう。行きたくありません。殺したくありません。それに、もう、二度とあなたに、逢えないかも知れない。死にたくない」
最後はもはや聞き取れないほどの呟きになっていた。戦局は厳しく、戦闘は益々激しくなっている。
ああ、神はこんな幼い少年にまで試練を与えたもうのだ、と絶望的に思った。
神職に就いている自分がこんなことを思うのは不敬なのだろうが、恐らくこの少年は試練を乗り越え人間性を高める事はないだろう。
その前にこの子は主の下に召される事になる、そうしてそれを惜しいと思ってしまうのである。
「生まれ変わったら、私たちはもっと近い存在ですよ」
「どういう意味ですか?どうして分かるのですか?生まれ変わりなんて信じてるのですか?もっと近い存在って、何?」
「ふふ、質問ばっかりですね。」
私は目の前の、愛しい少年の髪を撫でる。それは祭壇と同じ濃い金色で、彼が祈りを捧げる姿はひどく美しかった。
「答えてよ!」
「さあ、どうでしょうね」
納得できない顔で私を見る、膨れた頬を緩く撫でる。この子が戦地で安らぎを求めて思い出すのが私であればいいと、願う。
「いつ行くの?」
「もう、行きます。」
決心できなくて今まで言えませんでした、と目を伏せる。
「男爵はご存じ?」
「はい、昨日は食事会を開いて下さいました」
あなたにだけは中々言いだせませんでした、そう言ってはにかむ様子に年甲斐もなく涙がこぼれ、それを見られないよう彼を抱き寄せた。
「気を付けて。主の栄光は君と供にあります。何時も見守ってくれていますよ。」
他に掛けてやる言葉も見つからず、自分より少し背の高い少年に言う。年に比べたら確かに身長は高いが、まだ16なのだ。
一部の人間のように熱狂的に戦地へ送り出せられればよかった。
こんな思いなど、知らなければよかった。
「ファザー、あなたも見守ってくれますか」
「おお、勿論ですとも!いつも君とありますよ、いつも、どんなときも!」
ホザナ、ホザナ!
ーーーーーーーーー
あーあ、俺こんなとこで死ぬのかなあ。ここは何処だっけ!あ、病院か。国に帰りたかったな、村の皆は元気かな?優しい主人だった男爵も?あの人にも会いたかった。
この世の苦難を一身に背負ったみたいな顔したダークブロンドの髪と目のキレイなあの人。お元気ですか?俺はこの生き地獄でまた一つ年をとりました。
俺のことなんかキレイって言ってくれたけど俺はあの人の方がよっぽどキレイだと思う。
それにあの、声!
耳元を銃弾が掠めたときも、ここで友達になった奴の頭が無くなったときも、聞こえていたのははちみつ色の声で最後に掛けてくれた言葉だった。
あの顔に刻まれた皺のひとつひとつに美が集約されているのだ。あんな神職者ずるい。
神様、俺にあの人をください。
俺は輪廻なんか信じちゃいないけれど、あの人はいつだって俺を守ってくださった。なら、次は俺があの人を守る番だ。それなら、それはすごくすてきだと思う。
どこからか歌が聞こえる。
やわらかなランプの光
僕を待つ君の姿が浮かぶようだね
夢に見る君
いとしいリリー・マルレーン
ああ、なんだか眠い。
「アスタ・ラ・ビスタ」さようなら、さようなら。ご縁があればまたお会いしましょう。
さようなら。
神父マーフィー/16歳コナーのお話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「戦地へ行きます」
「そう、終に、」
「きっと前線です。あなたの教えに背いて人を殺すでしょう。行きたくありません。殺したくありません。それに、もう、二度とあなたに、逢えないかも知れない。死にたくない」
最後はもはや聞き取れないほどの呟きになっていた。戦局は厳しく、戦闘は益々激しくなっている。
ああ、神はこんな幼い少年にまで試練を与えたもうのだ、と絶望的に思った。
神職に就いている自分がこんなことを思うのは不敬なのだろうが、恐らくこの少年は試練を乗り越え人間性を高める事はないだろう。
その前にこの子は主の下に召される事になる、そうしてそれを惜しいと思ってしまうのである。
「生まれ変わったら、私たちはもっと近い存在ですよ」
「どういう意味ですか?どうして分かるのですか?生まれ変わりなんて信じてるのですか?もっと近い存在って、何?」
「ふふ、質問ばっかりですね。」
私は目の前の、愛しい少年の髪を撫でる。それは祭壇と同じ濃い金色で、彼が祈りを捧げる姿はひどく美しかった。
「答えてよ!」
「さあ、どうでしょうね」
納得できない顔で私を見る、膨れた頬を緩く撫でる。この子が戦地で安らぎを求めて思い出すのが私であればいいと、願う。
「いつ行くの?」
「もう、行きます。」
決心できなくて今まで言えませんでした、と目を伏せる。
「男爵はご存じ?」
「はい、昨日は食事会を開いて下さいました」
あなたにだけは中々言いだせませんでした、そう言ってはにかむ様子に年甲斐もなく涙がこぼれ、それを見られないよう彼を抱き寄せた。
「気を付けて。主の栄光は君と供にあります。何時も見守ってくれていますよ。」
他に掛けてやる言葉も見つからず、自分より少し背の高い少年に言う。年に比べたら確かに身長は高いが、まだ16なのだ。
一部の人間のように熱狂的に戦地へ送り出せられればよかった。
こんな思いなど、知らなければよかった。
「ファザー、あなたも見守ってくれますか」
「おお、勿論ですとも!いつも君とありますよ、いつも、どんなときも!」
ホザナ、ホザナ!
ーーーーーーーーー
あーあ、俺こんなとこで死ぬのかなあ。ここは何処だっけ!あ、病院か。国に帰りたかったな、村の皆は元気かな?優しい主人だった男爵も?あの人にも会いたかった。
この世の苦難を一身に背負ったみたいな顔したダークブロンドの髪と目のキレイなあの人。お元気ですか?俺はこの生き地獄でまた一つ年をとりました。
俺のことなんかキレイって言ってくれたけど俺はあの人の方がよっぽどキレイだと思う。
それにあの、声!
耳元を銃弾が掠めたときも、ここで友達になった奴の頭が無くなったときも、聞こえていたのははちみつ色の声で最後に掛けてくれた言葉だった。
あの顔に刻まれた皺のひとつひとつに美が集約されているのだ。あんな神職者ずるい。
神様、俺にあの人をください。
俺は輪廻なんか信じちゃいないけれど、あの人はいつだって俺を守ってくださった。なら、次は俺があの人を守る番だ。それなら、それはすごくすてきだと思う。
どこからか歌が聞こえる。
やわらかなランプの光
僕を待つ君の姿が浮かぶようだね
夢に見る君
いとしいリリー・マルレーン
ああ、なんだか眠い。
「アスタ・ラ・ビスタ」さようなら、さようなら。ご縁があればまたお会いしましょう。
さようなら。
コナマフ
ヤッてるだけのR18です。
ーーーーーーーーーー
弟はセックスをするときにいつも涙をながす。いやなのか、そう聞けばいやではないと言う。ならなぜ、そう問えば分からないと言う。本人に分からないものが俺に分かるわけがないのでもう問いはしない。俺はただただ口づけを落として、彼は静かに涙をながすだけだ。
「ふ、ぅ・・んっ」
「つらいか?」
ゆるゆると頭を振って否定して、空色の色をした目をうすく開いてこちらを見る。音も無く涙が降ってくる。雨のの色が溶け出してしまったかとおもった。そのつめたさ!
「・・ぅ、」
彼が急に身じろぎをするものだから、ただえさえきついやわらかな内壁が締め付けを強める。どうにもやり過ごせないような熱いかたまりが自分のなかを奔る。それを眉をひそめてどうにかしようとしていると、からだを支える手に何か感触があった。不思議に思い見遣ると自分より幾分白い彼の手であった。爪先の方が透き通った血の色をしているのを見て、力を抜いた。
爪先と同じ色をした唇に触れ、それがいろいろな形に動くのをじっと見ていた。そうして動きが止まった頃に好きだよ、と言ってやった。するとどうして泣いているの、と言う。俺は自分が本当に泣いているのかも知らないので、分からないと答えた。
その後であんなにはっきり見えていた水の色がそれこそ、水の中から外を見るように烟るので目を閉じた。目の横を滑り落ちたのが俺の涙なのか弟の涙か、それとも別のなにかなのかは今となっては知る由もない。若い魂は淡く発光している。
夜の隙間に。抜け出すことが出来るだろうか。
ああ、元より抜け出すつもりが無いのだった。
ヤッてるだけのR18です。
ーーーーーーーーーー
弟はセックスをするときにいつも涙をながす。いやなのか、そう聞けばいやではないと言う。ならなぜ、そう問えば分からないと言う。本人に分からないものが俺に分かるわけがないのでもう問いはしない。俺はただただ口づけを落として、彼は静かに涙をながすだけだ。
「ふ、ぅ・・んっ」
「つらいか?」
ゆるゆると頭を振って否定して、空色の色をした目をうすく開いてこちらを見る。音も無く涙が降ってくる。雨のの色が溶け出してしまったかとおもった。そのつめたさ!
「・・ぅ、」
彼が急に身じろぎをするものだから、ただえさえきついやわらかな内壁が締め付けを強める。どうにもやり過ごせないような熱いかたまりが自分のなかを奔る。それを眉をひそめてどうにかしようとしていると、からだを支える手に何か感触があった。不思議に思い見遣ると自分より幾分白い彼の手であった。爪先の方が透き通った血の色をしているのを見て、力を抜いた。
爪先と同じ色をした唇に触れ、それがいろいろな形に動くのをじっと見ていた。そうして動きが止まった頃に好きだよ、と言ってやった。するとどうして泣いているの、と言う。俺は自分が本当に泣いているのかも知らないので、分からないと答えた。
その後であんなにはっきり見えていた水の色がそれこそ、水の中から外を見るように烟るので目を閉じた。目の横を滑り落ちたのが俺の涙なのか弟の涙か、それとも別のなにかなのかは今となっては知る由もない。若い魂は淡く発光している。
夜の隙間に。抜け出すことが出来るだろうか。
ああ、元より抜け出すつもりが無いのだった。
コナマフ
ティーンの頃、初めてタトゥーを入れる話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
落ち葉を蹴りながら歩く様子が子供っぽくて笑ってしまった。
「どうした?なんか気に食わねえ事でもあんのか?」
ぐしゃり、卵の殻を割り損ねたみたいな音を立てて茶色くなった街路樹の葉を潰し、口を尖らせてマーフィーが言う。
「秋って嫌いだ」
「どうして」
また笑って言った。実りの秋だというのに。向かいの道にある屋台から焼き栗の焦げた香りが漂ってきて鼻と胃袋をくすぐる。
「ぜんぶふるい落としていやらしい。過去を捨てるなんてできやしないのにきたならしい。」
墨色のブーツの踵を茶色の絨毯に埋めてどんどん歩く。
コナーはマーフィーが転びやしないかと心配したが、もうアリを踏み潰さないようにそっと歩いていた弟ではないことを思い出して狼狽えた。小さなマーフ!
「ついこの前は夏が嫌いだって言ってたじゃねえか」
「ああ、嫌味ったらしく生命力を誇示する季節だから。暑苦しい」
マーフィーは口を尖らせて歩き続けている。俺たちのまわりは今、いやなものだけでできている、コナーは思った。
学校、勉強、友達、家族。好きだけど嫌いなもの。
生まれた時からいない親父の事をコナーは思った。何も持たないとはどんな感覚なのだろう。
そんな臆病な考えはおくびにも出さず、季節の話を続ける。マーフィーは俺が親父の事を考えていると怒る。
「春は」
「最低だ」
ざっ、というはでな音をたてて絨毯を蹴り上げた。
「浮かれやがって。春なんか、何があるっていうんだよ?」
「アー、いいじゃねえか花は咲くし風は気持ち良いし。」
まるで思ってやしないけれど言ってみる。なぜかあのスイートな子鹿が跳ね回っている情景までうかんでくる。
は、鼻で笑われてしまった。
「冬もきらい。輝く雪でなんでも隠せばいいとおもってる」
ワーズワースの詞を読むときと同じ調子で言ったマーフィーに、コナーは暖かい気持ちを感じた。たぶん愛情だろう。なぜだかは分からない。
今の調子で国語の授業でもやればミセス・キーツが聞けば涙を流して喜ぶだろう。
でも残念ながら彼女は詩を読むのに素敵な声のマーフィーには会えない。これは俺に対して不満がある時の調子だから。彼女が会えるのは寝起きの不機嫌な唸り声。
「嫌いなものばっかじゃねえか」
「一番きらいなのはコナー」
振り返りもせずに言い切ったマーフィーを抱き締める。踏みしめた葉のがさがさという音がいやに耳についた。これも命の音のひとつなのだろうか。魂の抜け殻。
「うそだね」
マーお手製のマフラーに顔を埋めて耳元で言うと、マーフィーは歩くのを止めた。
「兄貴面しておれになんの相談もないコナーはきらい」
指の正義の文字に視線を感じ、きまりが悪くなって右の親指で少し擦る。落ち葉は確実に俺たちの周りに積もってゆく。
「おまえだって結局いれたじゃねえか」
「ふん」
俺の腕からすりぬけて歩きだすマーフィーは猫みたいだ。
「拗ねてんのか?」
「知らねえ」
追い掛けて隣に並ぶ。頭に付いた葉の欠片を取ってやって笑う。
「拗ねんなよ。」
「拗ねてねえよ」
「次は同じやついれるか」
「 ‥‥ 」
「何がいいかなー」
「‥‥マリア」
聖母マリア。
マーが一番好きなシンボルだ。
大昔はタトゥーは通過儀礼の一つだったそうだ。ならこれは。
所属を表すものでもある。ならこれは。
腕を防寒着でもこもこのマーフィーにまわす。
恵みあふれる聖マリア、
主はあなたとともにおられます。
主はあなたを選び……
「マザコン」
「うっせ」
「首んとこにいれるかー」
「マザコン」
「はん」
マーフィーが幸せそうに笑うので、俺が勝手にタトゥーに込めたばかばかしい、
切実な思いは黙っておこうと思う。
恵みあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます。
主はあなたを選び、祝福し、
あなたの子イエスも祝福されました。
神の母聖マリア、罪深い私たち、特に私の弟のために、
今も、死を迎える時も祈ってください。
アーメン。
ティーンの頃、初めてタトゥーを入れる話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
落ち葉を蹴りながら歩く様子が子供っぽくて笑ってしまった。
「どうした?なんか気に食わねえ事でもあんのか?」
ぐしゃり、卵の殻を割り損ねたみたいな音を立てて茶色くなった街路樹の葉を潰し、口を尖らせてマーフィーが言う。
「秋って嫌いだ」
「どうして」
また笑って言った。実りの秋だというのに。向かいの道にある屋台から焼き栗の焦げた香りが漂ってきて鼻と胃袋をくすぐる。
「ぜんぶふるい落としていやらしい。過去を捨てるなんてできやしないのにきたならしい。」
墨色のブーツの踵を茶色の絨毯に埋めてどんどん歩く。
コナーはマーフィーが転びやしないかと心配したが、もうアリを踏み潰さないようにそっと歩いていた弟ではないことを思い出して狼狽えた。小さなマーフ!
「ついこの前は夏が嫌いだって言ってたじゃねえか」
「ああ、嫌味ったらしく生命力を誇示する季節だから。暑苦しい」
マーフィーは口を尖らせて歩き続けている。俺たちのまわりは今、いやなものだけでできている、コナーは思った。
学校、勉強、友達、家族。好きだけど嫌いなもの。
生まれた時からいない親父の事をコナーは思った。何も持たないとはどんな感覚なのだろう。
そんな臆病な考えはおくびにも出さず、季節の話を続ける。マーフィーは俺が親父の事を考えていると怒る。
「春は」
「最低だ」
ざっ、というはでな音をたてて絨毯を蹴り上げた。
「浮かれやがって。春なんか、何があるっていうんだよ?」
「アー、いいじゃねえか花は咲くし風は気持ち良いし。」
まるで思ってやしないけれど言ってみる。なぜかあのスイートな子鹿が跳ね回っている情景までうかんでくる。
は、鼻で笑われてしまった。
「冬もきらい。輝く雪でなんでも隠せばいいとおもってる」
ワーズワースの詞を読むときと同じ調子で言ったマーフィーに、コナーは暖かい気持ちを感じた。たぶん愛情だろう。なぜだかは分からない。
今の調子で国語の授業でもやればミセス・キーツが聞けば涙を流して喜ぶだろう。
でも残念ながら彼女は詩を読むのに素敵な声のマーフィーには会えない。これは俺に対して不満がある時の調子だから。彼女が会えるのは寝起きの不機嫌な唸り声。
「嫌いなものばっかじゃねえか」
「一番きらいなのはコナー」
振り返りもせずに言い切ったマーフィーを抱き締める。踏みしめた葉のがさがさという音がいやに耳についた。これも命の音のひとつなのだろうか。魂の抜け殻。
「うそだね」
マーお手製のマフラーに顔を埋めて耳元で言うと、マーフィーは歩くのを止めた。
「兄貴面しておれになんの相談もないコナーはきらい」
指の正義の文字に視線を感じ、きまりが悪くなって右の親指で少し擦る。落ち葉は確実に俺たちの周りに積もってゆく。
「おまえだって結局いれたじゃねえか」
「ふん」
俺の腕からすりぬけて歩きだすマーフィーは猫みたいだ。
「拗ねてんのか?」
「知らねえ」
追い掛けて隣に並ぶ。頭に付いた葉の欠片を取ってやって笑う。
「拗ねんなよ。」
「拗ねてねえよ」
「次は同じやついれるか」
「 ‥‥ 」
「何がいいかなー」
「‥‥マリア」
聖母マリア。
マーが一番好きなシンボルだ。
大昔はタトゥーは通過儀礼の一つだったそうだ。ならこれは。
所属を表すものでもある。ならこれは。
腕を防寒着でもこもこのマーフィーにまわす。
恵みあふれる聖マリア、
主はあなたとともにおられます。
主はあなたを選び……
「マザコン」
「うっせ」
「首んとこにいれるかー」
「マザコン」
「はん」
マーフィーが幸せそうに笑うので、俺が勝手にタトゥーに込めたばかばかしい、
切実な思いは黙っておこうと思う。
恵みあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます。
主はあなたを選び、祝福し、
あなたの子イエスも祝福されました。
神の母聖マリア、罪深い私たち、特に私の弟のために、
今も、死を迎える時も祈ってください。
アーメン。
カレンダー
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(09/17)
(09/17)
(08/01)
(06/17)
(12/31)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
ヤスチカ・カッター
性別:
非公開
ブログ内検索
最古記事
(01/18)
(01/18)
(01/18)
(01/18)
(01/18)
P R